K-POPとJ-POPの2025年型二極化・迷走構造
2025年の音楽シーンを俯瞰すると、K-POPとJ-POPはともに揺らぎの只中にありますが、その性質は異なります。K-POPは主に構造的な経済問題、J-POPは文化的なアイデンティティの迷走に直面しているのです。
K-POPの変化を象徴する出来事のひとつが、2025年8月に発表されたガールズグループ「Purple Kiss」の活動終了です。所属事務所RBWは財政難を理由に挙げました。グループはSNSや配信で一定の存在感を保っていましたが、従来型の収益モデル、すなわちフィジカル販売・ワールドツアー・ファンミーティング・グッズ販売といった多層的な収益源の維持が困難になったとみられます。実際、韓国文化体育観光部が発表した2024年のK-POP輸出額は前年比で伸びてはいるものの、その成長率はコロナ禍後の反動期に比べ半減しており、特に中小事務所の利益率低下が顕著です。制作費はグローバル市場を意識した高品質MVや振付、楽曲提供者の国際的起用により膨らみ、マーケティングコストも上昇。結果として、資本力のある大手3社(HYBE、SM、JYP)と、それ以外の生存率の差が急速に拡大しています。
一方、J-POPの揺らぎは経済構造というより文化的な迷走に根ざしています。近年、国内アイドル市場では「懐古路線」の台頭が顕著です。1980〜90年代の楽曲スタイルや衣装を引用した新規ユニットや、昭和歌謡リバイバル企画が増加しており、SNSでの一時的な話題化には成功しています。しかし、その多くはファン層が限られ、長期的な支持に結びつきにくい傾向があります。加えて、生成AIの進化により、ボーカルや作曲の一部をAIが担うケースが増加し、制作期間は短縮されたものの、「人間らしい作風」や「偶発性のある楽曲構造」が減少。SpotifyやTikTokなどでのバイラルヒットは起きやすくなった一方で、音楽ジャンルとしてのJ-POPの輪郭は曖昧になりつつあります。
両者に共通するのは、偶発性の欠如と短期消費化です。SNS・配信プラットフォームのアルゴリズムは、再生数・エンゲージメント率を最大化する傾向に最適化されており、結果的に似通った構成・音色・尺の楽曲が増加。これは1960〜70年代の音楽シーンに見られた実験性や、偶然の産物としての名曲誕生を難しくしています。
このような背景から、2025年の音楽産業は二極化しています。K-POPは資本集約型の大手がグローバル市場を独占し、中小規模は撤退や縮小を余儀なくされる。一方でJ-POPは、マス的な存在感を失いつつも、ローカルなコミュニティやSNS局所バズに依存して延命する。ライブ動員においても、大規模アリーナツアーは過去最高水準を維持する一方、キャパ300〜500人規模のライブハウスは回復が鈍く、赤字公演が増えているという報告もあります。
今後を展望すると、K-POPの中小事務所は制作規模を縮小し、オンラインファンミーティングやNFT的なデジタルグッズ販売といった低コストの収益源に移行する動きが強まるでしょう。J-POPは、AIによる制作の効率化を逆手に取り、人間の演奏や手作業ミックスなど偶発性を意図的に再導入することで差別化を図る必要があります。どちらのシーンにおいても、アルゴリズムが生み出す最適解から少し逸脱した「人間的ノイズ」を、あえて構造に組み込むことが、今後の生存戦略の鍵になると考えられます。

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