はじめに
路上ライブやストリートパフォーマンスは、長年にわたり「偶然の出会い」と「社会との交差」を生む文化でした。
しかし2025年の今、その意味は大きく変化しています。本記事では、路上演奏の変遷を整理し、コロナ以降に起きた転換点を踏まえながら、これからの課題と未来を考えます。
路上ライブの原点──偶然性と社会性
かつての路上ライブは、**「どれだけの人が足を止めるか」**で力を試す場でした。
通行人に直接声を届け、時に無関心や批判にさらされることこそ、音楽が「社会性」を持つ証でした。
偶然に生まれる拍手や出会いが、アーティストにとって大きな糧となっていたのです。
コロナ禍による決定的な転換
2020〜2021年のコロナ禍は、路上演奏やライブハウスの活動を中断させました。
その代わりに広がったのが、**オンライン配信やバーチャル・バスキング(投げ銭)**です。
YouTube Super Chat、TikTokギフトなど、収益の中心は通行人ではなく画面の向こうへと移行しました。
この時期を境に、路上は「観客の前で演奏する場所」から「撮影現場」へと役割を変え始めます。
路上=撮影現場となった2022年以降
2022年以降、路上での活動はSNS前提へと完全にシフトしました。
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TikTokのCreativity Program(2023年〜)で長尺動画が優遇
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YouTube Shortsの収益分配(2023年導入)
こうした制度により、短尺動画の「素材収集」として路上を利用するアーティストが増加しました。
三脚カメラの前で歌う姿は珍しくなくなり、通行人は観客ではなく**「背景」**となりつつあります。
世界のストリートパフォーマンスの現状
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ニューヨーク:「MUSIC UNDER NEW YORK」でライセンス制。治安リスクも増加し、SNS撮影前提の活動が中心に。
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ロンドン:「Busk in London」で音量や混雑を管理。SNS向けの映像収録を行う演者が増加。
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東京:「ヘブンアーティスト制度」は再開後、場所や時間が厳格化。新宿駅前では禁止にもかかわらず“聖地化”し、SNS配信前提の活動が論争を呼んでいます。
神宮前レコーディングスタジオの視点──社会性の危機
私たち神宮前レコーディングスタジオは、路上表現者を応援する立場にあります。
しかし同時に、**「社会性の崩壊」**に強い危機感を抱いています。
路上ライブは本来、公共空間の中で人と人が交差する場であり、音楽を社会に接続する営みでした。
それが今、個人の配信のための素材撮影に置き換わりつつあります。
このままでは、路上の文化的意義そのものが失われてしまうでしょう。
未来への課題と展望
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社会性の再導入
公認エリアやイベントと連携し、「観客と共にある」仕組みを設ける。 -
偶然性の回復
SNS向けであっても、通行人の反応や環境音をあえて残すことで公共性を保つ。 -
スタジオとの連動
路上での演奏を「ネタ出し」で終わらせず、録音・作品化するサイクルを作る。
結論
路上は「偶然の社会空間」から「個人の撮影現場」へと姿を変えました。
しかし、路上が本来持つ社会性や偶然性を取り戻すことは可能です。
神宮前レコーディングスタジオは、路上表現者を応援しながらも、この危機感を共有し続けたいと思います。
なぜなら、公共空間で鳴る音楽には必ず「社会との関係性」が刻まれるべきだからです。

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