2025年8月18日月曜日

ストリーミング成長の鈍化と録音スタジオの役割


 

ストリーミング成長の鈍化と録音スタジオの役割

音楽を聴く環境は、この十数年で大きく変わってきました。サブスクリプション型のストリーミングが当たり前になり、作品が“所有”から“アクセス”へと移行したことは誰もが実感しているはずです。けれど今、その成長が少しずつ鈍化してきています。

当初の勢いのままに拡大していた市場が落ち着きを見せ始めたのは、ある意味で自然な流れとも言えます。しかし、この停滞はアーティストや制作現場にとって新しい課題を突きつけています。配信さえすれば誰かの耳に届く時代は終わりつつあり、そこに「どう個性を込めるか」が強く問われるようになっているのです。

スタジオで音を録ることの意味も、こうした状況で改めて浮かび上がってきます。AIが滑らかに再現する音楽や、過剰に補正されたボーカルでは表現しきれないのは、声の揺らぎや息づかい、楽器の不完全さがもたらす温度です。そうした「音の質感」は、作品に存在の証明を与えるものとして、今こそ価値を増しています。

また、ストリーミング収益の伸び悩みは、アーティストが表現と収益を結びつける回路を多様化させるきっかけにもなっています。配信だけに依存するのではなく、限定盤や特典、ファンとの直接的な交流を通じて音源を届ける動きは、より強い結びつきを生み出す方向へと進んでいます。そのとき、高音質で意図のこもった録音は、単なるデータを超えて“作品”としての重みを持つのです。

録音スタジオに求められるのは、補正によって整えることと、意図的に不完全さを残すことの両方を見極める判断力です。そしてもうひとつ、録音の過程自体をアーティストにとっての物語にすること。その経験は音源を超えて記憶に残り、作品の価値を支える要素になります。

ストリーミング市場の変化は決して危機だけではありません。むしろ、「なぜ、誰のために音楽をつくるのか」という根源的な問いを再確認する機会です。録音スタジオは、その問いに向き合うアーティストを支える場として、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。

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