2025年8月13日水曜日

日常と非日常の交差点から生まれる音楽

日常と非日常の交差点から生まれる音楽

録音スタジオという場所は、常に二つの顔を持っています。日常的な営みの延長として存在する一方で、扉を開ければ日常から切り離された「非日常の空間」としての機能も持ち合わせています。

家庭で歌い慣れた声も、仲間内で遊び半分に作ったビートも、スタジオに持ち込まれた瞬間、それはただの生活音ではなく作品の素材となります。ここではマイクの前での一呼吸が大げさな演出へと変わり、日常がまるで舞台に上がるように姿を変えるのです。

しかし、完成した音源がリスナーのイヤフォンを通じて街角に溶け込むとき、その作品は再び日常へと還元されます。朝の通勤電車で聴かれるかもしれませんし、夜の散歩のBGMになるかもしれません。非日常の場で編まれた音は、こうして私たちの日常に寄り添い続けるのです。

この循環は、日本においても海外においても変わらぬ普遍性を持ちながら、文化的な厚みを形づくってきました。特にイギリスのパブロックがそうであったように、「日常の場」がそのまま音楽の新しい文化の発火点となることもあります。一方で日本では、日常と音楽文化の接点が「学校行事」や「趣味の延長」に限定されがちで、そこから新しい潮流が生まれることは多くありません。その分、スタジオの役割はより重要になっていると感じます。

音楽は、特別な人だけのものではありません。日常の声や感情がスタジオという非日常の場を通して形になり、再び生活へと戻っていく。その循環の中にこそ、私たちが共有できる喜びや文化の芽があります。

神宮前レコーディングスタジオは、その循環を支える交差点でありたいと願っています。大げさな夢でなくても構いません。生活の一部としての歌や言葉を持ち込んでいただければ、私たちは丁寧にそれを受けとめ、形にするお手伝いをいたします。

「日常を非日常に変換し、非日常を日常へ返す」
その営みの積み重ねが、未来の音楽文化を少しずつ育てていくのだと信じています。

そして最後に、こんな問いを残したいと思います。

あなたにとって、音楽は日常でしょうか?それとも非日常でしょうか?

その答えを探す時間そのものが、音楽の持つ豊かさなのかもしれません。

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