2025年10月29日水曜日

ヒット曲の定義が消えた時代 ――バズと継続聴取の断絶をめぐって

2025年の今、「ヒット曲」という言葉の意味がわからなくなった――

そんな声を、レコーディング現場で頻繁に聞くようになりました。

かつては明確な基準がありました。

オリコンチャートで何位、CDが何万枚。

“ヒット”は数字で語られ、努力の成果が誰の目にも見えるものでした。

しかし今、再生数やSNSでの拡散が中心となり、その定義はあいまいになっています。

バズることと聴かれること。

注目を集めることと、愛され続けること。

それはもう、同じ意味ではなくなりました。

ヒットの指標は、CDの売上から、

ストリーミング、動画再生、カラオケ、SNS投稿数といった複数の要素へと広がりました。

Billboard JAPANのチャートでは、これらの要素を総合的に集計しています。

ですが、こうしてチャートが細分化されるほど、

「何をもってヒットと呼ぶのか」がわかりにくくなっているのも事実です。

短尺動画で一瞬バズる。

それでも翌週には、別の曲がその席を奪っていく。

そのスピードの中で、演奏家や歌手は「自分の音楽の居場所」を探し続けています。

再生数が何百万を超えても、収益にはつながらない。

人の心を動かしても、職業としての安定にはならない。

そんな矛盾が、現場の中で積み重なっています。

TikTokやYouTube Shortsで人気が出ても、

そこからストリーミングへ聴取が移る曲はごく一部だといわれます。

視覚的な注目は得られても、耳が動かない。

「音楽が映像の背景になる時代」と呼ばれるように、

今の“バズ”は、音楽そのものを聴く行為から遠ざかってしまっているのかもしれません。

AI音楽の登場も、ヒットの定義をさらに複雑にしています。

AIが歌い、AIが演奏する。

人間の歌手や演奏家の存在意義はどこにあるのか。

スタジオで実際に人の声を録るたび、

その「呼吸」と「間」に宿る温度が、どれほど貴重なものかを実感します。

機械が音を作っても、

“心”や“時間”は作れません。

これからのヒットは、

一瞬の注目ではなく「どれだけ長く聴かれ続けるか」。

そして「誰の記憶に残り、再び聴かれるか」。

短い波ではなく、長い呼吸。

音楽が人の生活に根づいていく時間こそが、本当のヒットだと思います。

数字ではなく、記録。

バズではなく、継続。

その考え方が、これからの音楽制作に必要な軸ではないでしょうか。

神宮前レコーディングスタジオでは、

そんな「人の声」や「演奏の時間」を記録として残すことを、これからも大切にしていきます。

神宮前レコーディングスタジオ公式サイト:

https://www.elekitel.net/

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