録音スタジオという物理的な空間は、これまで長く音楽制作の中心でした。
しかし2025年現在、録音産業は静かに転換期を迎えています。
世界規模では市場が拡大を続けているにもかかわらず、その成長の果実がメジャーとプラットフォームに集中し、中間層のクリエイターやスタジオには届かない構造が定着しています。
音楽産業の成長と分配の偏在。
それが、現場を支えてきた小規模スタジオを静かに追い詰めています。
イギリスのMusic Producers Guild(MPG)とUK Musicの調査では、スタジオの約半数が「1年以内の閉鎖を検討」と回答。
燃料費や家賃などの固定費は上昇し、価格転嫁も難しい状況が続いています。
この状況は日本でも他人事ではありません。
設備投資を前提とした従来型のスタジオ運営は、同じ構造的リスクを抱えています。
そしてこの5年ほどで、録音拠点そのものが大きく入れ替わる可能性が高いと私は考えています。
AIと宅録の普及がもたらす変化
音楽制作のワークフローは、この数年で大きく変わりました。
AIによる自動アレンジやマスタリング、宅録環境の高性能化。
もはや「プロのスタジオで録らなければならない」という時代ではありません。
ただし、AIが生成した音や自宅で録られた音が、
どのような経緯で作られ、どんな処理を経て公開されたのか。
その“履歴”を記録・証明できる場所は、まだほとんど存在しません。
この「音の証跡(トレーサビリティ)」の欠如こそが、
これからの録音産業にとって最大のテーマになると感じています。
作品を守り、信頼を可視化するには、ログ(記録)を残す仕組みが必要です。
神宮前レコーディングスタジオの新たな役割
神宮前レコーディングスタジオでは、従来の収録中心型から「音の履歴を残すスタジオ」への転換を進めています。
- 録音ログの標準化
- 収録から納品までのプロセスを明文化し、AI支援履歴やファイル構造まで記録。音源の「生成履歴」を可視化・保全します。
- 宅録+AI併用支援
- 自宅で録音した素材やAIで生成した音を持ち込み、音質監査・納品設計・権利管理支援をワンストップで提供します。
- 空間の再定義
- スタジオを「録るだけの場所」ではなく、「編集・AIチューニング・アーカイブ設計」の拠点として再構築します。
これにより、単なる「時間貸し」から、「音の記録と継承を支える場」へと役割を拡張していきます。
「あと五年」という時間軸の意味
AIによる音楽生成は、CISACの予測によれば2028年までに音楽収益の20%を占める見通しです。
また英国では、録音拠点の半数が閉鎖危機にあるという報告もあり、物理的なスタジオの減少はすでに始まっています。
つまり、録音スタジオの「入れ替わり期」はもう始まっているのです。
この5年というスパンは、危機ではなく「再構築の猶予期間」として捉えるべきだと感じています。
いま始めれば、10年後の文化の形を自分たちの手でつくることができる。
そのために、現場から構造を変える意識が求められています。
未来に残すべきもの
録音産業の終演は、破綻ではなく再定義です。
AIと宅録の進化が進むほど、人間の耳と判断が問われる場面は増えていく。
「音を聴き、正しく記録する」ことこそ、スタジオの新しい使命だと思います。
神宮前レコーディングスタジオでは、
音の品質を超えて、「どのように残すか」「誰の手を経て生まれたか」という価値を記録していきます。
それが、AI時代の“音の証明”になると信じています。
神宮前レコーディングスタジオ
https://www.elekitel.net/
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